俺様当主の花嫁教育
「あ……」


一瞬にして我に返る。
そうしてお作法を思い出しながら、お点前にあずかろうとした。


「……作法は気にしなくていいから、好きなように飲め」


そんなぶっきら棒な言葉も、私を気遣ってくれているように感じる。
意地を張って超お作法通りに頂こうかと思ったのに、私はそんなの気にせずにお椀を手に取った。


両手で支えるように押し戴く。
そして。


「……甘い」


一口コクンと飲んで、思わずほおっと息をついてしまう。
ほんの少し、御影さんの表情が和らぐのを感じた。
私は御影さんに真っすぐ顔を向けて、この感想を伝えようと、微笑んで見せる。


「この間のお茶会よりも、優しい味がします」

「……そんなの、志麻にわかるわけない」


クッと笑いながら皮肉を口にする御影さんは、もう既にいつもの御影さんだ。
それでも私は、静かにもう一度お椀を傾けた。
そうして、自分なりに素直に、もう一口味わった。


「やっぱり、そう思います。……いい香り」


バカにされることはわかっていて、私はそう繰り返した。
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