俺様当主の花嫁教育
オフィスでも、こんなにはっきりものを言うエリカちゃんを見たことがない。
御影さんのホームグラウンドのお茶室は、エリカちゃんにとっても実力を発揮出来る自信のある場所なんだろう。


隣の西郷さんが、短く息をのんだ。
彼の心中が、よくわかる。
だってエリカちゃんの意識は今、西郷さんじゃなくて御影さんにまっすぐ向けられているのだから。


西郷さんの嫉妬剥き出しの視線を、御影さんも感じているだろうに。


「いいですよ。ぜひ」


短い言葉で了承して、音もなく立ち上がった。
そして、お点前席をエリカちゃんと入れ替わる。


頬を上気させて、エリカちゃんは嬉しそうにお点前を始めた。
当たり前だけど、私なんかとは比べ物にならない美しい所作。
エリカちゃんは私も見惚れるほど凛として、西郷さんだけじゃなく、御影さんの視線をも虜にする。


一人、蚊帳の外にされた気分で、私は膝の上で手をギュッと握りしめた。


――悔しい。
御影さんの目まで奪ったエリカちゃんが、どうしようもなく妬ましい。


お茶の味なんか、全くわからなかった。
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