明治あやかし物語
「なんなのよ!この記事は!インチキでたらめじゃない!」
翠はフンッと鼻を鳴らすと周囲を見回した。
周りの人たちが自分を見ていることに気がつくと慌てて席に座りなおした。
「翠ちゃん…どうしたの?変な記事でもあったの?」
翠の隣に座る親友、”市松 小蝶 ” は心配そうに翠の横顔を覗き込んでいる。
「大有りだわ。見て!これ。」
翠はシワが出来た新聞を伸ばし、余った場所を埋めるようにして描かれた小さな記事を指差した。
小蝶は目を細めてその記事を読む。
「ええと…”最近、夕暮れ時に現る不審者に注意した方が良いだろう。被害にあった 上林 寿太郎によるとである。なんと袖を引かれて振り返ると誰もいないらしい。ある道を通る度に起こるらしいのだ。上林氏は「いつか俺やぁ殺されちまう。」とのこと。夜道にはお気をつけあそばせ。袖引き小僧に殺られようぞ。”……これがどうしたの?」
小蝶は記事を読み終えると不思議そうに翠を見た。
「これ、ただの妖怪のイタズラなのよ。なのに殺られるだとか…なんとか…インチキばっかり。袖引き小僧はイタズラするけど、鬼じゃないんだから殺したりなんかしないわ。」
翠はもう一度記事を一瞥すると、またフンッと鼻を鳴らした。
「じゃあこれ…時貞君に言ってみようよ!!!!!!それにあっちの妖怪新聞の方に何かこれに関する事が書いてあるかも。」
小蝶は ”時貞君” という言葉に妙に重みを付けながら言った。
「そうだね。そうしよう。これじゃあ袖引き小僧があまりにも可哀想。」
翠は小蝶の言葉に頷くと、新聞を綺麗に畳んで鞄にしまった。