プワゾン
親友
「離婚しようと思うの」
事も無げに沙耶(さや)は言った。
「えっ?」
私は次に続く言葉を見つけられずに、ただ沙耶の昔と変わらず綺麗にメイクされた顔と、頬杖ついた指先のゴージャスなネイルを見ていた。
爽やかな風が気持ちいい平日。昼下がりのオープンカフェで専業主婦の沙耶と美容師の私がお互いの近況報告を笑顔で終えた後だったのに……。
あまりに突然な沙耶の言葉だった。
五月の連休明けに久しぶりに会わない? と携帯に電話をくれたのはそのためだったの?
私達二人は中学からの付き合い。ずっと親友だった。
八年前に沙耶は同じ中学の同級生だった達也と結婚して、今年、小学校に入学した美夏ちゃんも居るのに……。
「それはもう決めたことなの?」
「達也には、まだ言ってないわ」
「聞いてもいい?」
「なに?」
「離婚の原因は何なの?」
「…………」
「美夏ちゃんは、どうするの?」
「原因は、あなたよ……」
「私……?」
「そうよ。達也はまだあなたを忘れてない」
「ちょっと待ってよ。私、達也とは何もないわよ」
「ずっと、あなたを好きだったのよ」
「そんなの中学の時の話でしょう?」
確かに中学時代はクラス中の噂になっていた達也と私。でも一度だって二人で会ったこともないし、付き合っていたなんてまったくの嘘、作り話。
「達也と沙耶が、もしも上手くいってなかったとしても、それを私のせいにするなんて……。誰か他に女の人が居るんじゃないの?」
「他に……?」
「達也とちゃんと話し合ってよ」
「うん。ごめん。そういえば……」
「なに? 何かあるの?」
「帰りが遅い夜……。いつもプワゾンの香りがするの」
「プワゾン? ディオールの香水の?」
「そう。あなたは……」
「私はニナ・リッチしか使わないわ」
「そうよね。レールデュタンよね。昔から……」
「疑いは晴れた?」
「ごめん。私どうかしてた……」
「いいのよ。気持ちは分かるから」
事も無げに沙耶(さや)は言った。
「えっ?」
私は次に続く言葉を見つけられずに、ただ沙耶の昔と変わらず綺麗にメイクされた顔と、頬杖ついた指先のゴージャスなネイルを見ていた。
爽やかな風が気持ちいい平日。昼下がりのオープンカフェで専業主婦の沙耶と美容師の私がお互いの近況報告を笑顔で終えた後だったのに……。
あまりに突然な沙耶の言葉だった。
五月の連休明けに久しぶりに会わない? と携帯に電話をくれたのはそのためだったの?
私達二人は中学からの付き合い。ずっと親友だった。
八年前に沙耶は同じ中学の同級生だった達也と結婚して、今年、小学校に入学した美夏ちゃんも居るのに……。
「それはもう決めたことなの?」
「達也には、まだ言ってないわ」
「聞いてもいい?」
「なに?」
「離婚の原因は何なの?」
「…………」
「美夏ちゃんは、どうするの?」
「原因は、あなたよ……」
「私……?」
「そうよ。達也はまだあなたを忘れてない」
「ちょっと待ってよ。私、達也とは何もないわよ」
「ずっと、あなたを好きだったのよ」
「そんなの中学の時の話でしょう?」
確かに中学時代はクラス中の噂になっていた達也と私。でも一度だって二人で会ったこともないし、付き合っていたなんてまったくの嘘、作り話。
「達也と沙耶が、もしも上手くいってなかったとしても、それを私のせいにするなんて……。誰か他に女の人が居るんじゃないの?」
「他に……?」
「達也とちゃんと話し合ってよ」
「うん。ごめん。そういえば……」
「なに? 何かあるの?」
「帰りが遅い夜……。いつもプワゾンの香りがするの」
「プワゾン? ディオールの香水の?」
「そう。あなたは……」
「私はニナ・リッチしか使わないわ」
「そうよね。レールデュタンよね。昔から……」
「疑いは晴れた?」
「ごめん。私どうかしてた……」
「いいのよ。気持ちは分かるから」
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