恋がしたい。ただ恋がしたい。
「あぁ、ごめんね。食べてるとこを見てたんじゃないよ。…香織ちゃんはさ、どんな時でも髪はきっちり結んでるよなぁって思って見てたんだ。」
まだ起きてから一時間も経っていない。さすがにパジャマは着ていないけど、素っぴんの顔に比べて、髪の毛だけきっちりと結ばれているのが、裕介くんには不思議に思えたのかもしれない。
ギュッと後ろに一つで結んだポニーテール。学生の頃より、少しだけ位置は低くなったけど、一つ結びよりは高い位置に意識して結ぶようにしている。それは、私にとって一種の自己暗示のようなものだ。
私に対するみんなのイメージ通りの『しっかり者の崎山香織』になるために、髪の毛と一緒に心をギュッと引き締める。
「ギュッと髪の毛を結ぶと、気合いが入るんだよね。裕介くんもやってみたら?」
「僕には制服があるから、結構です。それに、結ぶほど長くないしね。」
「そっか。あの格好いいギャルソンエプロンを着て、裕介くんは王子に変身するんだね。」
「またそうやってからかうんだから…」
真っ白なシャツに、黒いネクタイ、ベストにギャルソンエプロンを身に着けたウェイターのスタイル。裕介くんにとってもあの制服を着る瞬間が、普段との自分を分ける大切な時間なんだろう。
まぁ…変身前から、だいぶ王子さまでキラキラキラーなのは置いといて。
やっぱり、私達は似ているのかもしれない。そう思いながらサラダに視線を移した時、不意に裕介くんが聞いてきた。
「ところで、髪の毛を結んだら気合いの入る香織ちゃんは、今日は土曜日なのにどうしてそんなに気合いが入ってるの?」
切れ長な瞳が、何か物言いたげに私をじっと見つめている。