恋がしたい。ただ恋がしたい。
その瞳に見つめられた事で、心の奥に生まれた動揺を悟られたくなくて、わざとアハハと笑いながら返事をした。
「えー、だって昨日仕事ほとんど放り出して帰って来ちゃったから、仕事がたまってるんだよ?平日並の気合いを入れて行かなきゃいけないじゃない。」
これは、ホントの事。
だけど、裕介くんはニコリともしなかった。
「香織ちゃんが仕事放り出して帰って来るなんて珍しいよね。…大丈夫?何か仕事が手に付かないような事があったんじゃないの?」
鋭い一言に、ドキリとする。
「えっ…あっ…あのね、特に何かあった訳じゃないの。昨日は暑かったから、何だか仕事に集中できなくて…だから、今日こそ頑張らないと…って思って。」
昨日あれだけ裕介くんに話してしまいたいと思っていたのに、こうして『何かあった?』と本当に聞かれてしまったら、何故か咄嗟に誤魔化してしまっていた。
…これは、私と亨の問題だ。誰かに助けてもらおうなんて、甘い考えは止めたほうがいい。
だから、これでいいんだ。
「ふーん、そっか。…『お仕事』頑張ってね。」
何だか含みのある言い方だったけど、気にしないようにした。
それからは裕介くんに何も質問される事もなく、気まずい雰囲気になる事もなく、お喋りを楽しみながら朝食の時間は過ぎていった。