恋がしたい。ただ恋がしたい。

志帆さんはそんな私の様子を見ると、「そっか。用事があるんじゃなくて、逆ね。」とニヤリと笑った。


「はい…。で、相談なんですけど、カフェスペースでなるべく人目につきにくくて、話とか…聞かれにくい席ってありますか?」


小山が戻って来たとしても見つからず、もし見つかったとしても話が聞こえてこないような席にいたい。


失礼な事を言っているのは、承知の上だ。


志帆さんには、そんな私の気持ちもバレバレで、身体を折り曲げながら面白くて仕方ない、といった様子でククッと笑われてしまった。


「あー、可笑しい。はいはい、分かったわ。香織ちゃんにはとっておきの席、用意してあげるわね。」


そう言うと志帆さんは、レジにいた女の子に「ちょっとここお願いね。」と言い残し、「香織ちゃん、いらっしゃい。」と笑いながらカフェスペースに向かってスタスタと歩き出した。



カフェスペースの厨房側、ちょうど店舗だとショーケースが並んでいる所にカウンター席があるのだけど、


「香織ちゃん、こっち。」


志帆さんはカウンター席の端の方の、ちょうど厨房の壁と窓に挟まれた個室のように区切られている席へと私を案内してくれた。


確かにここだと厨房側からカフェスペースを見た時には見えないし、外の道路からも奥まった席なので目に付きにくい。


おまけに、カウンターの端には背の高い観葉植物が置いてあって、カウンターに座っている人がいても目が合ったりする事は無さそうだった。
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