恋がしたい。ただ恋がしたい。
結局、亨は私の事を理解しようとはしてくれなかった。
目の前のこの女(ヒト)が、亨とどんな関係かは分からないけど、亨が本気で私にプロポーズするつもりだって知って我慢ができなかったんだろう。
ここまで乗り込んで来るくらい、本気で亨のことが好きなんだ。
「何ぼーっとしてるの?何か言ったらどうなの!」
反論一つもせず、黙りこんでいたのが気に入らなかったのだろう。初めは丁寧だった言葉も苛立ちを含んだものに変わっていた。
「亨さんに振られて本当は悔しかったんでしょ?ベッドに眠れなくなるくらいショック受けてたくせに、何でもありませんって涼しい顔しーー」
「望!!」
そこまで私と一緒に黙っていた亨が、急に慌てて会話を止めた。
「ーえっ…。」
その慌てように、胸の中にもやもやと、言い様の無い不安が広がる。
裕介くんが気がついたように、私の性格を知っている人なら、ソファーを見たら私がベッドを避けていた事はすぐに分かるはずだ。
亨がこの人に部屋の様子を教えたの?
それとも…この人も一緒に見たの?
「ねぇ、亨?」
まさかとは思うけど…。
「この人…私の部屋に入れた?」
返事を聞かなくたって、表情で分かってしまった。
…信じらんない。
膝に置いていた手がすっと温度を失って、冷たく固くなっていった。