恋がしたい。ただ恋がしたい。
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「裕介くん…もう大丈夫。」
店を出ても、抱かれたままの肩が熱を帯びたように熱い。
その熱さから逃れるように身体を捩ると、今度は指を絡めるように手を繋がれてしまった。
「…香織ちゃん、ごめんね。」
裕介くんは前を向いたまま、謝ってきた。さっきまでの甘い表情が嘘みたいに固く、何だか落ち込んでいるようにも見える。
「余計な事をしたって思ってるよ。でも、見ていられなかったんだ。」
どうして裕介くんが申し訳なさそうにしているんだろう。むしろ、あの場に現れてくれて嬉しかったくらいなのに。
「余計な事なんかじゃないよ。裕介くんがいたから亨に私の気持ちをちゃんと伝えられたんだよ。だから、謝らないで。」
あれだけ自分の問題だからと、迷惑をかけたらいけないと思って裕介くんに相談しなかったのに、自分一人では亨に言いたい事も言えなかった。
その上仕事まで休ませてしまって、結局迷惑をかけてしまっている。
気まずくて目をそらすと、ショーウインドウに映った自分の姿が目に入った。
一人では何もできなくて、情けなくて、心の中は泣き出しそうなくらい悲しい気持ちでいっぱいなのに…
そこにはいつも通りのポニーテールで、無表情で、気が強そうに見えるキツイ顔立ちの自分が映っていた。