恋がしたい。ただ恋がしたい。
ギュッと髪を結んで気合いを入れたって、心まで強くなる訳じゃない。見た目だけだ。
身体と心はいつもチグハグで、そんな弱い自分が嫌になる。
目に映った自分の姿を消すように、ぶんっと勢い良く首を振ったら、いつの間にかこっちを向いていた裕介くんと思いっきり目が合ってしまった。
「…ふふっ。」
しゅんとした表情が可愛くて、気がついたら笑ってしまっていた。
さっきまで何となく気まずい雰囲気だったのに、不思議と笑った瞬間にそんな空気は吹き飛んでしまっている。
裕介くんが居てくれて本当に良かった。
あのままだと、あの望って言う彼女に好き放題言われて、亨には何も言えずに、もやもやとした気持ちを抱えたまま一人で寂しく帰っていたはずだから。
「良かった。香織ちゃんが怒ってなくて。」
はぁ、と大げさに息をついた裕介くんが可愛らしくて、また自然と笑顔になってしまう。
恋人のように振る舞ってくれた事には少しだけ照れてしまったけど、怒るどころか今こうして笑っていられるのは裕介くんのおかげだ。
「どうして?怒る訳ないじゃない。」
「…じゃあ、気持ち悪くない?あんな所に隠れて、ストーカーみたいだったでしょ?」
「そんな、気持ち悪いなんて思わないよ!…びっくりはしたけど。でも、裕介くんはどうして『Milkyway』で私が亨と会うことを知ってたの?」
厨房から出てきた時点で偶然いた、ってのは考えられないし、そもそも裕介くんがどうして亨との約束を知ってたのか不思議で仕方がなかった。
「…純くんから連絡もらったんだ。」
裕介くんはうつむきながら、ばつが悪そうに答えた。
純くんが?どうして?と一瞬思ったけれど、そっか、純くんは私達が付き合ってるって誤解してるんだったな、と思い出した。