恋がしたい。ただ恋がしたい。
心地よさに導かれるまま、少しだけ本音を話してしまいたくなった。
裕介くんなら、こんな風に心ごと受け止めてくれる気がしたから。
「…ほんと、情けないよね。」
「何が?」
目を見て話するのは少しだけ恥ずかしくて、下を向いたまま話始める。
「私、こんな事になるまで亨が私と結婚する事に疑問を感じていたのも、あの望って人に言い寄られていたのも、全然気がつかなかった。」
『プロポーズを見るまで気がつかないなんて、香織は鈍感すぎる!』
紫にそう言われた時は、仕事が忙しい時期で亨ともなかなか会えなかったから、気がつかなかったのは仕方ないって自分に言い訳をしていた。
だけどそうじゃない。
亨が私と一緒に人生を歩もうと思ってくれた瞬間。
それに疑問を持った瞬間。
あの女(ひと)と亨が知り合って、親密になるまでの時間。
同窓会でのプロポーズの事だけじゃない。私は二年も付き合ってきた恋人の、そんな変化に何一つ気がつかなかったんだ。
「それは、仕方ないんじゃない?そうじゃなくてもさ、男は何か大きな決断する時には慎重になるもんだよ。だから、試す…のはやりすぎだけどさ、何かしらのきっかけや勢いがなきゃ踏み切れないヤツもたくさんいるってこと。気が小さいんだよ、男はね。」
「僕だって、そうだよ。」そう言って頭の上で小さく笑った気配がした。