恋がしたい。ただ恋がしたい。

「香織ちゃんの恋は終わったんだよ。安心して気持ちを解放したらいい。」


そうだ。私、恋をしていたんだ。


幸せだった二年間。


確かに私は亨に恋をしていて、私にとって彼はいちばん愛しい存在だった。



「終わったか終わらないか分かんないから、諦めもつかなくて、ずっと辛かったよね。」


裕介くんの言葉に、両目から堰を切ったように涙が溢れて頬を伝っていった。


再び恋をすることができて、恋をしていた事に気がつくことができて嬉しい。


…でも、結局また私は恋を失ってしまった。


私は嗚咽をもらして泣くこともできずに、裕介くんを見つめたまま静かに涙だけを流し続けた。


裕介くんは何も言わなかった。


ただ、時折小さな子どもをあやすように、トントンと背中を叩いてくれた。


やがて涙が止まりかけた頃、背中を叩いていた両手が私の頬を包み、指が涙を拭うように横に滑っていった。


耳の後ろに添えられた手が、少しだけ私の顎を持ち上げた瞬間には、唇に温かくて柔らかな感触を感じていた。


あまりにも自然な仕草で、目を閉じる間も無かった。
< 129 / 270 >

この作品をシェア

pagetop