恋がしたい。ただ恋がしたい。
前にリビングで抱き締められた時は、まだ冷静だった。
心地よく絡み付く腕から逃げることができた。
でも、今日は違った。
…いつの間にか、私は裕介くんの事を好きになってしまっていたから。
ずっと恋がしたいって、そう思ってた。
ただ、恋がしたいって。
恋をするとしあわせになれるって、そう思ってたから私は恋を求めて、探して、彷徨った。
どうして私は恋をしただけでしあわせになれるなんて思ってたんだろう。
「…くるしいよ。」
しあわせになんか、なれなかった。
恋しいのに、苦しい。愛しいのに、胸が張り裂けそうに辛い。
せめて嫌いになれたら、酷い人だと思えたらまだ苦しまなくて済んだのに。
そう思うには、私は彼に心を開きすぎていた。
心も身体も全部預けてしまってから彼女がいる事を知り、報われない想いにズタズタに傷ついているのに嫌いになることもできない。
どうしようもない想いだけを抱えたまま、ただ彼のいない夜が更けていく。
今頃はあの彼女と抱き合っているのだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えている自分に苦笑した。
「バカみたい。」
裕介くんは私の彼氏じゃないんだから、嫉妬する権利すら無い。
自ら進んで落ち込むような想像をするなんて、どう考えてもまともじゃない。
そのままキッチンに向かうと、冷蔵庫からビールを取り出して一気に二本を飲み干した。