恋がしたい。ただ恋がしたい。
「余計な事はズバズバ言うくせに肝心な事は言えなくて損してばっかり。ほんと『女バスの鬼』の名が泣くよ。」
「そのあだ名で呼ばないでよ…。」
高校3年生の時に、私は何故か『鬼』というあだ名をつけられた。
中学高校とバスケ部だった私。
170センチの長身。動きやすいように、髪型は年中ポニーテール。纏めた髪のせいで二重だけど、少しだけキツい顔立ちに見える目もと。
快活そうな見た目とA型属性の几帳面な性格もあってか、責任がある立場に立たされることも多く、高校の時にはキャプテンを任された。
進学校だったけど、バスケは男女どちらも県の中では強豪校だったから、任された責任感でしっかりしなきゃ!と自分にも他人にも厳しくした結果…『鬼』とまで呼ばれるようになってしまったのだ。
まぁ、ちょっと厳しくしたくらいじゃあ『鬼』とまでは呼ばれない。
こんなに不本意なあだ名を付けられたのにはワケがある。
…ってか、さっきまで終わった恋(のようなもの)の話をしていたのに、何でいつの間にか昔の恥ずかしいあだ名の話になってるの?
「もう、いいじゃない。そんな昔の事なんて忘れてよ。」
「忘れたくても忘れられないわよ。アレで完全に香織のキャラがおかしな方向に行っちゃったんだから。」
「そうそう。香織ちゃん、アレでだいぶ誤解されちゃったからね。」
紫は帰宅部だから、バスケ部の事情は知らないはずなのに、二人して「そうそう、アレね。」なんて言って、ニコニコ顔を見合わせて頷き合っている。