恋がしたい。ただ恋がしたい。
「えっ、ちょっと待って……。」
裕介くんが、どうして鍵を開けないでインターホンを鳴らすの?
『ピンポーン』『ピンポーン』『ピンポーン』
紫が玄関に向かう間にも、まるで連打しているようにしつこくインターホンが鳴り響く。
何でこんなに何度も鳴らすの?…これって、本当に裕介くんが鳴らしてるの?誰か違う人じゃないの??
その焦ったようなインターホンの音に、開け放たれたリビングのドアから座ったまま、玄関の様子をのぞき見る。
「もう、うるっさいなー。今開けるってば。」
紫が呆れた声でガチャリと玄関の鍵を開ける。ドアが開くと同時に「香織ちゃん!!」と裕介くんが声を上げながら玄関を駆け抜けてリビングに飛び込んで来た。
「ねぇ、大丈夫?!熱は?具合は?!…どうして起きてるの?寝てなくちゃダメでしょ!」
裕介くん…どうしちゃったの?
跪いて私の肩を掴みながら必死に話かけてくる裕介くんの勢いに驚いて、何も言い返す事ができない。
呆然とする私に向かって、さらに何か喋りかけようとした裕介くんの肩を、紫がトントンと叩いた。
そして、裕介くんが振り向いた瞬間……
紫のしなやかな指先が、裕介くんの頬めがけて勢い良く降り下ろされていた。