恋がしたい。ただ恋がしたい。
***
「崎山…ちょっと話があるんだけど。」
放課後の職員室。奥さんのご機嫌を直す為、さっさと帰ったはずの男に声をかけられた。
「何?大村くん。早く家に帰らないと奈緒子ちゃんの機嫌が悪くなるんじゃないの?…ケンカしたんでしょ?」
「はっ?ケンカなんかしてないけど。」
「…へっ?」
じゃあ朝から何であんなに不機嫌だったの?
「あー…朝のアレな。…崎山に話があってどう聞こうか考えてた。ってか崎山、お前菊井といつ別れたんだ?」
ゴフッ!!
予想外のド直球な質問に思わず口にしたばかりのコーヒーを派手に吐き出した。
「うわっ!汚っ!!」
「ゲホッ、ゴホッ。……ッ」
『同窓会に来なかったくせに、なんで知ってるの?!』と言いたかったけど、今私の気管はコーヒーでびっちりと埋まっている。
言葉が通る隙間が全く無い。
「先週の同窓会、俺は用事があって行けなかったんだけど、菊井がプロポーズしてみんな盛り上がってたって村上から聞いたからさ…俺てっきり崎山がプロポーズされたんだと思ってたのに、違うって言うからびっくりして………崎山は…途中で帰ったんだって?」
むせる私に、純くんは箱ごとティッシュを手渡しながら丁寧に説明をしてくれた。
その何か含んだような言い方を聞いて、私が逃げるように帰った事まで知っているんだろうな、と気がついてしまった。
私と亨が付き合っていることを知ってる人は多かったけど…まさかあのプロポーズの瞬間に振られたとは思わなかったのだろう。
村上くんは亨とも仲が良かったし。どうして普段行かない同窓会に私が来たのか不思議がって純くんに話すのも無理無いか…。