恋がしたい。ただ恋がしたい。
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「…っていうワケなのよ。…ちょっとぉー、きいてるの?!ゆーすけくん!!」
「聞いてるって。…香織ちゃん声大きいよ、もうちょっとボリューム落として。」
「なによー!!」
「あのさ、気持ちは分かるけどね。…純くんも香織ちゃんの事が心配だっただけなんじゃないの?」
「そんな事…」
「無い?違うよ。放っておけなかったんだって、きっと。…て言うかさ、ほんとは分かってるんだよね?香織ちゃんも。」
「…………うん。」
ここまでニコニコと笑いながら諭されると、不思議と刺々しい気持ちも引っ込んでしまい、素直に返事を返してしまう。
私達は駅前にある『紫山(しざん)』という居酒屋に来ていた。
放課後の純くんとのやり取りに後悔して、でも一旦イラついた気持ちに収まりがつかなくて、仕事あがりの裕介くんを無理矢理誘って飲みに来たのだ。
ちなみに紫も誘ったけど、「ちょっと嫌な事がある度に飲みに誘うのやめてよね!あたし、今彼氏と一緒にいるから!じゃあね!」と、バッサリきっぱり断られてしまった。
週の始めだというのに何故か店内は混み合っていて、私達はカウンター席に通された。
出来れば小上がりか、個室でゆっくり愚痴りたかったんだけど…仕方ない。