恋がしたい。ただ恋がしたい。
「そうそう。家賃はきっちり折半だから余計な気を遣う必要もナシ。部屋も分かれてるし、プライベートな空間も保証するよ。」
「そっ、それだったら…もうちょい職場に近い所にアパート探して…駅前じゃなかったら家賃も…もっと安いし…」
「はい、ストップ。もういいよ、香織ちゃん。」
「…何よ、もういいって。」
「一緒に住まない理由を無理やり探すより、住んじゃったほうが楽だって。」
ね、とニッコリと微笑まれ、ぐっ、と言葉に詰まる。
「はい、香織の負けー!」
黙りこんでしまった私に、紫の陽気な声が降り注いだ。
…ってかさ、勝ち負けじゃないでしょうよ。
もういいや。確かに色々考えるよりも、ここにこのまま住んでしまったほうが楽だ。
それに三人で過ごす心地よさに慣れてしまった今、いきなり一人きりになるのもキツかった。
「…紫はいつから亘さんと一緒に暮らすの?」
「今週末にはお互いの両親に挨拶に行くことにしてるから、その後かな。少しずつ荷物は運び出しとくから、香織も来週には本格的に引っ越して来てもいいわよ。」
「大きい家具は持っていかないから、そのまま使っていいし。…だから、あんな事やこんな事をしたベッドやソファーは処分しちゃいなさい。ねっ。」