恋がしたい。ただ恋がしたい。
「あんな事、は余計だよ…でも、ありがと。」
ベッドとソファーと念を押された事で…紫も裕介くんと同じで色々と私の複雑な心情を察してくれていたんだな、と気がついた。
…だけど。
「紫は…あの……ベッドで『そんな事』は…して…ないのよね?」
もしそうだとしたら、ベッドをもらうのはちょっと…いや、かなり抵抗がある。
私の言葉に、紫と裕介くんは顔を見合わせてからクスクスと笑い出した。
そのタイミングも、笑い方もそっくりで、やっぱり二人は姉弟なんだなって思う。
「ふふふっ。香織、安心してよ。この家に裕介以外のオトコは入れてないから。」
「そういう事。僕も誰も連れて来る事は無いから安心してよ。これからよろしくね、香織ちゃん。」
語尾にハートマークが付きそうなほど上機嫌の裕介くんに手を差し出されて、とっさにその手をギュッと握り返した。
「よ、よろしく…。」
何だか二人にうまくやり込められたような気がする…。
そんな複雑な思いで握り返したその手に、友情以外の感情が混ざっていたことに、その時の私は全く気がついていなかった。
***
「…香織ちゃんはさ、慎重なくせにほんと押しに弱いよね。ま、そこが危なっかしくて…可愛いとこなんだけど。」
「ふーん…ようやく押す気になったんだ。まぁ、あたしがせっかくチャンス作ってやったんだから、潰すようなマネしたら承知しないからね。…あと香織の事、絶対に泣かすんじゃないわよ。」
「それはもちろん。感謝してます。ありがと、紫ちゃん。」
ざるの私よりもはるかに酒に強いこの姉弟が、そんな会話をしていたなんて事も…
酔い潰れて眠っちゃっていた私は、ちっとも知らなかったのだ。