恋がしたい。ただ恋がしたい。

「まぁ、香織がいいならそれでいいや。裕介、今日はラストまでなの?」


『Felicita』は昼前から22時までの営業だから、勤務の時間は交代制で、ラストまでだと裕介くんの帰宅は0時近くになる事もある。


「うん。だからゆっくりしておいでーって。」


外出も含めて遅くなる時は一応報告すること。これもお互いの日常生活のペースが乱れないように、と決めたルールなのだ。


「…何か、ウチより香織のほうがよっぽど新婚みたいじゃない?」


ニヤニヤと笑いながらからかってくる紫に、慌てて言葉を返す。


「やっ、そんなんじゃなくてっ、…ほらっ、ご飯の支度とか…色々都合があるじゃない?ねっ?…遅くなるって分かってたら適当に済ませばいいし。」


「3人の時はご飯なんてそれぞれ勝手に食べてたじゃない。」


あっ…。

ニヤニヤニヤニヤ。紫の笑いが止まらない。からかわれているのが分かっていても、頬が熱くなるのを止められなかった。


最初は私だって勝手にご飯を作って勝手に食べていたのだ。

でもある日ご飯を食べていたら、帰宅した裕介くんが「わー、鶏じゃが!美味しそう!…これ、僕の分もある?」なんて言ってきて…


よくよく聞いたら『Felicita』のまかないはこってりだから、あっさりした和食に飢えていたらしく、何より裕介くんが「美味しい!香織ちゃん、また作って!」と笑顔で言ってくれるのが嬉しくて…
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