恋がしたい。ただ恋がしたい。
広々としたリビングは、電気が点いていないと余計に寂しく感じてしまう。
そんな事、実家に居た時だって、一人暮らしをしていた時だって感じた事は一度も無かったのに。
「あっ!そう言えばLINE来てたんだった。」
寂しさを紛らわすように、わざわざ声を出しながらソファーに腰を下ろし、鞄からスマホを取り出した。
アプリを立ち上げようと、タップしかけた指がピタリと止まる。
ポップアップで表示されているその名前は、数ヶ月前までは私を最も安心させて、そして温かい気持ちにさせてくれた人だった。
「…亨?」
今更何なの?何の用?と思うよりも先に、引っ越しも済ませたのに亨の連絡先を削除していなかった自分に驚いていた。
「…どうして?」
それは『どうしてLINEなんてしてくるの?』と亨に思って口にした『どうして』なのか、『あんな酷い目にあったのに、どうしてアドレスを消さなかったの?』と自分に問いただした『どうして』なのか、自分でもよく分からなかった。
『香織ちゃん、どうしてって何が?…何かあったの?』
もし裕介くんがこの場にいたら、すぐに私の様子がおかしい事に気がついてこんな風に言葉をかけてくれたはずだ。
だけど今裕介くんは、ここにはいない。
答える人のいない私の声は、リビングに虚しく響いていった。
もちろん今居なくてもいつかは帰って来るんだから、この前みたいにのんびり飲みながら帰りを待って、話を聞いてもらえばいい。
…そう思うのに、裕介くんが今ここに居ないというだけで何だか泣きそうなくらいに無性に寂しかった。