C・P・A
**************


朝まで、わたしは何度も彼の病室を訪れた。


脈をとる他は、もう彼に触れなかった。




朝一番に、彼の母が来た。

わたしが彼と出会ったのは、お互いに成人してからだ。

彼の母は、彼が子供のかわいらしい頃からの記憶があるのだから、亡くなる息子を前にしてわたしには計り知れない想いがあるはずだ。




最期は彼の母親に、看取ってもらいたい。

昨日のキスを最後に、母親に全てを返すべきだと考えていた。



*************



最後のキスから2日後。

寝ているのかと思うほど、穏やかな最期だった。
涙を溢す母に手を握られ。
反応はなくても、きっと最後の最後まで母の呼び掛けは聞こえていたはずだ。




わたしは、彼の最期のとき、ドクターの傍にたちモニターを見詰めていた。


「サチュレーション触れません」


彼の耳に届いた最期の言葉は、なんとも味気ないものだった。



・・・・・・別れの挨拶は、あの夜に済ませてあったから。



わたしは、泣かなかった。

彼が応援してくれた看護師として、彼の最期に向き合った。




彼と母親を見送り、最後のカルテを記入した。
ペンを置き、ふうっとひとつ、ため息をついた。





患者の名前を、指でなぞった。












< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:16

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

初恋

総文字数/3,664

恋愛(純愛)5ページ

表紙を見る
雨情物語①<猫会議>

総文字数/1,117

その他4ページ

表紙を見る
表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop