小さな恋のメロディ
少しだけ寂しさを感じながら、哲平が待つ小さなアパートに戻る。


「…てよ!」


私は部屋の前で立ち止った。
中から哲平と……


里沙の声がしたから。

…里沙が来てるの?

私は部屋の前で、耳を澄ませて。


「綾香の何がいいの?家事だってろくに出来ないじゃない!」

「そういう問題じゃないんだよ…」

「じゃあ何なの?!綾香のせいで哲平の家だって…私の方が哲平を幸せに出来るもんっ」

「俺達、結婚するよ?」

「…子供が出来たから?私は諦めないからっ」


聞き間違えだよね?



私は震えが止まらなかった……。


呆然と立ち尽くす私の前に、里沙が凄い勢いで飛び出して来た。


「…里沙?」


里沙は何も言わないで、階段を降り、走り去った。


「…ただいま」

「……」

「里沙来てたんだ?」

「…うん」


哲平と私の間に、変な空気が流れる。


「あっ、給料貰って来た」


空気をかき消すように私が言った。
でも哲平は無口で…。


「…お前、聞いた?」

「何を?」

「そっか…。ならいいんだ」


私は哲平から話してくれるまで、何も聞かないよ?

何かあった時は、いつもそう思ってた。

でも哲平から


”それ”


を話してくれることはなかった…。


< 117 / 141 >

この作品をシェア

pagetop