小さな恋のメロディ
男は言った。


「良かった。心配したよ…」


「…貴女がてっぺい君…?」

「綾香、何を言ってるの!鳴海さん、ずっと付き添ってくれたのよ?」

「…綾香、ここに居るのよ?」


そう言って、ママと”なるみさん”は病室を出て行った。

ここは何処の病院なんだろう?

窓の外の景色も、見覚えがない。

一人病室に残された私は、何も考える事が出来なくて…。
たふだ、窓から流れる雲を眺めていた。

季節はきっと秋…。

私は今まで何をしてたんだろう……?


ママと”なるみさん”は、少しすると医者を連れて来た。

医者の診察によると、私は記憶喪失らしい。


「綾香さんの中で、消してしまいたいくらい辛い事があったんでしょう…」


医者は言った。

そして、その記憶は戻るかもしれないし、一生戻らないかもしれないと。


私自身が拒否した記憶なら、戻らなくていいと思う。
思い出したって、きっと辛いだけでしょ?


知らないで済むなら、一生知りたくない。


ママもパパも言った。


「無理に思い出す必要はない」


と……。

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