小さな恋のメロディ
ー退院の日
「綾香、退院祝いに中津さんのお嬢さんが来てくれたぞ」
パパが嬉しそうに言った。
「中津さん?」
「はら、中津先生の娘さんの万里奈さんだよ。先生達にお礼の挨拶に行って来るから、鳴海くんが来るまで、二人で話してなさい」
そう言ってパパとママは病室を出て行った。
「入れてもらえて良かった…。哲平くんも何度か来たみたいなんだけど、会わせて貰えなかったみたいだから…」
「てっぺい?」
「赤ちゃん…残念だったね…。これからどうするの?」
そう言えばママが、私とてっぺい君の赤ちゃんって言ってた…。
でも、私は思い出したくないんだ…。
「アヤさん…?」
「私、何も覚えてないの…」
「!?」
「だから貴女の事、知ってるけど知らない」
「…哲平くんの事も忘れたの?」
「…名前しか知らない」
「それでいいの?!記憶はもう戻らないの?」
「戻るかもしれないし、一生戻らないかもしれないって言われた。でも、私は思い出したくないの」
「辛い事もいっぱいあったと思うよ。けど…、大切な物があったんじゃない…?」
「大切な…物?」
「……。私、帰るね。何かあったら電話して?」