小さな恋のメロディ
私は鳴海さんと週に何回か会い、あの空き地にも毎日のように通っている。


「こんにちは」

「こんにちは」


今日もあの男は居る。


「最近、顔色がいいですね。…何か良い事がありましたか?」

「そろそろ結婚を考えています」


私は笑顔でそう答えた。


「……そうですか」

「はい。そういえば、お名前は?」

「…俺には名前が無いんです」

「記憶…障害?」


私は一瞬ドキッとした。
この人も私と同じなの?

すると男は苦笑いして首を横に振った。


「私は記憶が一部無いんです…」

「……思い出したいと、思いませんか?」

「記憶を無くしても、毎日は変わらず過ぎて、前に進んでいます。これでいいんだと…」

「そうですか…」

「そろそろ帰りますね。じゃあ、又」


笑顔で去る私を見て、男は呟いた。


「綾香の記憶の中に居ない俺なんか…この世に居ないのと、同じなんだよ…!」


でも、私には届かなかった…。


それから何度か空き地に行ったけど、男は居なかった…。



空地で会った時の、ただの話し相手。


でも男が居ない空地は、少し寂しかった……。

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