小さな恋のメロディ
「俺は…もうここには来れないかもしれない」

「?」

「父親が残した工場を、潰すわけにはいかないんだ。幸せになって下さい…」

「…貴方も」


男は頷いて、空地を出て行った。

私も鳴海さんと結婚をすれば、ここに来る事は出来なくなる。

もう、会う事はない…。

そう思った時、少し男に惹かれている自分に気付いた…。


だって、
凄く悲しかったから…。



それから暇な時間を見付けては空き地に行ったけど、男に会う事は無かった。


式の準備は、着々と進む。


「では、お式は3月28日の日曜日、大安でよろしいですね」

「はい、お願いします」

「では、次に披露宴で流す曲にご希望はございますか?」

「んー、二人で決めようか?」

「うん」

「じゃあ、帰りにCDを買いに行こう」

「そうだね」


パパや東城さんの都合で、席次はパパ達に任せたけど


「結婚前に二人で何かやり遂げたいんだ」


という鳴海さんの意向で、私達は式の準備に取り掛かる事になった。

親に敷かれたレールの上を歩き、何も乗り越えて来なかった私達には、ちょうどいい行事なのかもしれない。

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