小さな恋のメロディ
翌日私は母親に言った。
「花火見にいくから、浴衣が欲しいんだけど」
「あら、いいわね。彼氏と行くの?」
「友達と」
「じゃあ、明日買いに行きましょ」
ママは楽しそうだった。
今まで彼氏を友達だと言ったことはない。
哲平のことを彼氏と言わないで友達と言ったのは、本能の働きだと思った。
壊されたくない大切な物を、必死に隠す子供のように……。
そして次の日、ママと浴衣を買いに行った。
紺の朝顔の柄の浴衣。
ちょっと地味かも知れないけど、『似合ってる』とママと店員が言うから、これに決めた。
――日曜日
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
私は美容室で着付けと髪のセットをしてもらい、薄く化粧もしてもらった。
慣れない浴衣と下駄で、少し歩きにくい。
哲平との待ち合わせ場所に着くと、やっぱり哲平はもうそこにいて、私は後ろから回って、哲平に気付かれないように哲平に近付いた。
「哲平!」
「おわっ……」
哲平はビックリしてて、少し笑った。
「マジ?浴衣じゃん!」
「……変?」
「……いや、似合ってるよ。行こうか?」
微妙な哲平の言葉に少しブルーになる。