小さな恋のメロディ
「そっか。体調が悪くないならいいよ」


哲平はそう言うとご飯を作り始める。


「お風呂、沸かすね」

「サンキュ」


なんとなく、後ろめたかった…。
そんな私に哲平は気付かない。

気付かれてはいけない。

ミュウでバイトを始めて2週間が経った。
哲平や里沙にはバレてない、

週3日出勤の私は、今日は出勤日だ。
出勤すると、すぐにボーイに言われた。


「アヤさん、ご指名です」

「?」


席に案内されて行ってみると、20代半ばの男が待っていた。


「失礼します」


私は男の横に座る。


「元気だった?」

「…?はい」

「覚えてないかな?俺、アヤちゃんがバイト初日の日に付いて貰ったんだけど…」


記憶を辿っても、思い浮かばない…。


「まぁ、いいや。俺、牧野って言うんだ!何か飲んで?」


牧野と名乗るこの男は、ひ弱そうで、人が良さそうで、似合わないブランドのスーツにブランドの時計を身にまとう…。

この日を境に、牧野は私の出勤日にはいつも顔を出すようになった。

そして週に一回はブランド物の鞄や、アクセサリーをプレゼントしてくれる。


私はそれを哲平に見付からないように、押し入れの奥に隠した。

< 98 / 141 >

この作品をシェア

pagetop