言えない恋心
わたしひとりを残して……。
――ここは伯爵家、ハウリングのお屋敷。
ハウリング家は、都市ひとつを任されるくらいの地位で、わたしは教育係を務めている継母たちとハウリング家に住み込みをしてお世話になっている。
さあ、床磨きは終わったわ。
濡れたぞうきんを床に擦りつける手を止めた。
綺麗な床になったおかげで見窄(みすぼ)らしい自分の姿が映っている。
ツギハギだらけの灰色の服。腰まである赤茶色の波打つクセ毛。色白な肌はお世辞にも健康的とはとてもいえない。
――こんな姿、自分でも見るに堪えない。
『灰かぶり』
わたしは義母や義姉たちからそう呼ばれていた。
継母たちに意地悪をされるのは仕方がないこと。
見るに堪えないのは何もわたしの容姿だけではないからだ。
それはわたしの言い方。一番前の言葉を繰り返して発音してしまう吃音症(きつおんしょう)にある。