君に熱視線゚

「………」

苗が飛び出して行った扉を晴樹は暫し見つめる。

(自己紹介してもやっぱ、兄さんかよ?)

台風一過のような静けさの中…晴樹はそう思いながらうつ向いて黙々と食べかけのパスタを口にし始めた。

ゆっくり話し掛けるチャンスを伺う中島は、そんな晴樹を見つめる。

「……ふ…」

「……?…」


不自然に聞こえてきた晴樹の声に中島は耳を傾けた。

「…っ…ぶふっ…」

パスタを食べる手を止め、晴樹はうつ向いたままゆっくりと片手で顔を覆う…


「‥‥…‥ぷっ…」


さっきから下品な音が晴樹の口から漏れてくる。

そんな晴樹の肩は小刻みに震えていた。

「‥晴‥樹さん?‥」

恐る恐る問いかけた中島に晴樹は何でもない、と肩を震わせながら無言のまま手をヒラヒラさせる…

が、その数秒後だった……

「…っ…ぶはっ!──ダメっ!…ムリっもう……ぶふっ」


堪えきれず勢いよく吹き出した。


「晴樹さん……」


涙目で顔を赤らめあまりのおかしさに声もでない。

腹を抱え悶絶をうつ晴樹はとても苦しそうだった。

「あ~‥‥
っ疲れたぁ‥‥ククッ‥
はぁっ‥‥あのさぁ‥」

残り笑いを堪え、晴樹は中島に話しかけた。


「俺、聞いてなかったんだけどさぁ‥あの子‥名前なんていうの?」


「‥え、‥苗のこと?‥」

「そう!‥いまの子‥なえ?何 なえ?」


「田中‥ 苗 ……」

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