好きも嫌いも冷静に
「あの時、俺は大家さんと、俺の部屋に行こうとしてたんだ…」
「えーっ、じゃあ、話はすすんで、ついにだったのね?」
「ああって、返事をするのもどうかと思うけど…、その、そんな感じに成ってたんだ…。
結果はどう成ってたかは解らないけどね…」
「だけど、あの騒動に成った。
だから、タイミングを逃したって事か…」
「ああ。いくら何でも…、空き巣を捕まえた後で、部屋に連れて行って、じゃあって、何事も無かったように…出来るか?」
「こうやって話せば、確かに、理屈はそうだけど…。
そんなの…飢えた狼なら喰ってるわよ?
アドレナリンも加わって、さらに情熱的な夜を過ごしたかも知れないわよ?
…まあ、これは人によるわね。肉食ならそうなるかも。
…伊織は冷静だったって事よ。…冷静も時と場合よ?
女にとって、冷静でいて欲しい時もあるし、冷静でいて欲しくない時もあるのよ…。
…大事なのは、相手との気持ちの問題、バランス、関係性もね」
英雄は俺の手を握った。
「…」
「それで、それから何だか難しくなったのよね?…患ってるわね、恋に」
「…ああ、何だか気不味くて、会い辛い。…会うと、それだけでそれ目的になってると思われるんじゃないかと…」
「はあ?…バッカじゃないの?伊織。
そんなの考えずに、いつだって、許可だって、いらないのよ?
会いに行けばいいのよ、澪さんのところに。
拒否されてるの?違うでしょ?」
「ああ。そんな事はないはずだ、多分。会ってないから解らないけど」
「なら、何の問題もないじゃない」
「だけど、用もないのに訪ねるなんて…」
「もう、バカじゃない?…」