好きも嫌いも冷静に
「…会った時、伊織さんが彼女に言った言葉は曖昧でした。あれでは彼女は色々思案して、何度も傷付いてしまう事になります…、多分。
…だから、伊織さんの口からハッキリ伝えた方が良いと思ったのです。…怖い女でしょ?私」
私は妬いていた。余裕なんて全然なかった。
会話の中、聞きとれた部分に、抱きしめられた、とか、何度も、とか…。
そのことに理由はあったのだろうけど…、抱きしめた、という事実は事実。伊織さんの腕にこの女性は抱きしめられたのだ。どんな理由があったにせよ、抱きしめたなんて、聞きたくない‥、知りたくない。理由が解らないから余計妬けてきた…。
酷い顔つきになっていないか心配…。
ううん、きっと嫉妬にかられた醜い顔をしているはず。
「…なるほど。結果、俺は澪さんの言うように、ハッキリ伝えた…」
「あんなに感じのいい可愛らしい人…。タイミングがタイミングなら…、きっと伊織さんは…」
「俺は?何?」
「いいえ、何でもないです…」
タイミングがタイミングなら、彼女を好きになっていた、選んでいたはず…間違いない。伊織さんの求める、いい奥さんになりそうな人だもの…、合いそうな人…だもの。そう私の中の何かが、危険を察知した…一緒に居るのに不安になりたくなかった…。だからあんな事…。
「彼女を好きになっていた。…選んでいたって、そう言いたいのかな?」
「え?」
どうして、そんな…。
「意外で驚いた?俺、女心には疎いけど、それなりには解るんだよ?澪さん、俺の大事な人は澪さんですよ?彼女にもそう言いました。
確かに、心は不安定で不確かなモノかも知れないけど、…貴女にはっきり言いました。結婚は貴女とじゃなきゃしないと。
何度でも言いますよ?
澪さんがいいんです。澪さんじゃなきゃダメなんです」
貴女となら穏やかな恋心でずっと居られる、そう確信したんだ。
「伊織さん…」
「もしかして変な表現だけど、安泰のようなものは嫌なのかな。その…激しい変化のある恋愛がほしい?
……不安になったら二人で話せばいい。何度でも確かめ合えばいいじゃないですか。
俺は好きですよ、誰よりも。穏やかな気持ちで貴女だけを見ています」
「あ…、伊織さん…」
「さあさあ、歩道の告白タイムはここまでですよ。鈍感な俺でも人の好奇の目が痛い事、解ってますから。行きますよ?」
澪さんの手を引いて本屋に向かって歩みを進めた。