好きも嫌いも冷静に
「今日も美味しかったですね」
俺達は英雄の店を後にして、今は澪さんの部屋に居た。
「そうですね。何だか段々俺が遠慮しなくなってきて、英雄に色々気を遣ってもらってる気がします。無理、言い過ぎかも知れないです」
「いい人ですもんね。サービス精神も旺盛と言うか。
…あの、伊織さん?少し、聞いて頂きたいお話があります。
いきなり、ごめんなさい」
澪さんは入れたコーヒーを手に、テーブルの前にペたりと座った。
俺はマグを受け取った。
「実は、俺の方も話しておきたい事があります」
「どうしましょう、どちらから話しますか?」
「俺から、いいですか?」
「…はい、あ、でも。はい…、大丈夫です」
何だろう…。
「んんっ。では…。俺は澪さんとこうなる前、…会社の課長命令で見合いをしました」
「お、お見合いですか?!伊織さんが?それは…知りませんでしたね」
「はい、断れない…、命令でしたから、仕方なくです。それで、写真がなくて、会う迄相手の方を知らなかったのです。会ってみると、その相手が、後で英雄の彼女になった環さんという訳でした。
俺はすぐ断りました。会社命令の見合いです。
初めから誰であろうと断るつもりでしたから。
そして、その後英雄が付き合う事になりました。
環さんは、英雄が中学の頃から思い続けていた人で、やっと願いが叶った人です。
俺が以前、酷い寝不足だった原因、友人は前途洋々だと言った事は、この事だったんです。
…ただ、誤解しないで聞いて欲しいのですが。
環さんが見合いの段階では、俺に好意を持っていてくれたので、断った時、少し難しかったという事です。
でも安心してください。俺は最初から何とも思っていませんから。
環さんだって、今は英雄が良くて、…そういう関係ですから」