好きも嫌いも冷静に

｢客に付き合ったのかも知れないし、…男かも知れない。…連れはいい男だった。
世の中、そんなに居ないだろ？いい男って。なんであいつはそんな奴と居たんだろうな…。
環はどうだか、としても、相手には下心あると思わないか？…絶対とは言わないが…。
理解はしてるんだ、頭では。店をしてる、客商売だし、断れない事も色々ある。…。
女が一人でやってる店だからな…｣

｢事実は解らないじゃないか。本人に確かめてもない事、想像で決め付けたら、環さんが気の毒じゃないか？｣

｢ああ、解ってる。解ってるんだ。
ただ、環は根っからの自由人なんだよ。
俺はアイツに好きだと言った。環も好きだと言った。…それだけだ。
付き合おうって言ってないし、言われてもない。だからこの先、結婚があるかなんて事も…論外だ。好きだという事以外、何もないんだ。…好きだと言う中の…、その一人に過ぎないんだと思う、俺の事。良く言って彼氏の一人…かな。かもな。…そう考えたら、俺と会ってない時間は環の自由なんだ。
そういう事だと思う。そう思ったら、…納得だよ。好きだと思ってくれているから、それでいいんじゃないかな…｣

｢…英雄｣

｢いいんだ。俺がそれでいいと決めたから、それでいいんだ。
…流れてる水みたいに、身を任せてみるさ…。
なるようになるよ。なるようにしかならない。事実は知る必要がない｣

｢…で、元気になれるのか？
なれなきゃその考え方、意味がない｣

｢なれるさ。慣れたら、なれるさ｣

｢…そうか？俺に出来る事は？ないのか？
代わりに確かめてもいいぞ？｣

｢いいわよ、気を遣わなくても。環の本質はよく解っているから、大丈夫よ｣

｢解った。無理にオネエになるなよ、英雄。
溜め息が出なくなったら、大丈夫だったんだって信じてやるよ｣

｢…伊織｣