好きも嫌いも冷静に
「…あるよ」
「じゃあ頂戴」
「ああ…」
パウンドケーキを切り分け、持ってきた。
「…どうぞ」
「有難う。………やっぱり美味しい。昔から上手よね…。見た目と違って、器用で、…繊細で…。
部屋に帰ったら居るもんだと思ったのに、居ないじゃない…。
何を思ったかしらないけど、勝手に誤解して…。
一緒に居た男の事、聞きもしないで…。
それとも…、あれから私があの男を、家に連れ込んだとでも思ったのかしら?」
「あ、いや…」
「何が、いや、よ。
聞きたい事があるんでしょ?確かめなくていいの?さあ、存分に聞きなさいよ。こっちだって疑われたくないわ」
「…くそぉ。…敵わないな…」
「え?何?聞こえませんけど?」
「……。あの夜…、一緒に居た男とは、どんな関係なんだ?」
「はい。あの人は常連のお客様です。得意先の人を連れて来てくれました」
「…なんで、酒なんか…、酔ってただろ?肩、抱かれてたじゃないか…」
「はい。酔ってしまいました。お水と間違えて、お客さんの冷酒を飲んでしまいましたから」
「はあ?…何だそれ?本当か?ったく、相変わらず…そそっかしいなぁ。
だけど…、それが何故、外であんな…」
「お店の終いまで、そのお客さんが帰らなかったのよ。だから、暖簾をしまって、常連さんの大事なお得意様だから、タクシーを呼んで、通りに出て帰るのを一緒に見送って、それではって、頭を下げた後、…酔いが来たのよ、いきなり。
だから、すまなかったなって、肩を貸してくれたの。
そうして店迄送り届けてくれて、帰って行ったわ。以上です。信じる?どう?」