好きも嫌いも冷静に


環の奴、大胆にも澪さんに向かって、私は伊織さんが好きだったのよ、と言った。何もこんな日にだ。
俺の立場は…と、思ったが、もう…終わってる事だ。過去形の話だ。それを気にしたら負けだ。
ストレートに言った方が笑い飛ばせる事もある。
澪さんは、知っていました、でも、もう伊織さんは私のモノですから、と言った。…澪さんも…中々に強い。
見えない火花は多少散ったような気はしたが、その程度だ。すぐ意気投合したようだ。
…根底にあるモノは、同じ人を好きになったという事だろうか…。
敵わないよな、伊織には。そして、女には…敵わない。
女がか弱いなんて、誰が決めたんだ?
…自分から弱いって吹聴するのかな…。
弱いけど…、逞しいんだな。
ちゃんと自分を生きてるとでも言うのかな。

もっと、もっと、環の弱い部分、見せてもらいたいもんだ…。
あっ、バカ、アイツ…、また間違って…シャンパンなんか…飲んじまった…。

「おい!大丈夫か?」

「あ、英雄。お水、お水。お水頂戴。大丈夫。そんなに度数高くないから。…平気よ」

「本当か?」

「ウフフ、大丈夫」

…その笑いが大丈夫じゃない証拠じゃないか…。
そろそろお開きだ。

全員帰った事を確認して店を終った。
環はスタッフルームに寝かせて居る。

「環?、タクシー来たから…帰るぞ?大丈夫か?」

「大丈夫よ…もう楽になったから」

「そうか…、じゃあ今から大丈夫そうだな」

「大丈夫。…え、何が?」

「…今夜だよ」

「え?」

人の幸せに大いに感化されてしまった。そんな日だ。

「俺、今夜は上手く解けそうな気がする…その帯」

「…英雄、…帰るわよ」

環が先に立ち、俺は手を引かれるように部屋を後にした。

「いや〜、環~」

最高だ…環。

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