好きも嫌いも冷静に
「余程、気に入られたんじゃないのか?」
変な探りはされたくない。気持ちもないし、何もないんだから。
「そんなことは…俺にも相手の人が考えている事は解りません。先方がどうしてもと言うのであれば、会って断ってきます」
「いいのか?」
「いいも何も‥。そうしないと終わりませんから。そうすれば納得なんでしょ?」
「…あれだな。そうだ、きっとそうだ。相手は美作に惚れて、それで忘れられなくなったんだよ。そうだよ。うん、うん。
最初は断られた事、納得したつもりだった。でも、やっぱり惜しくなったんだよ。美作がいい男だから。そうに違いない」
課長は腕を組み、それ以外無いとばかりに自慢げに納得したようだ。…だから、それは…違うと思うけどな。…どうなんだ。
確かに、断るのはその通りしてくれていいと言ったが、その後の言葉、何かありそうな含みがあった。…。
俺が見合い相手と知り合いだったとは、課長には言っていないし、自分が店の客で、居所も知っていたという事も言っていない。
「それもどうか解りませんが、…とにかく、会いますよ。会って断ります」
「すまんな…。じゃあ、頼むぞ?
俺は部長さんに連絡をしておくから。…美作、色男は辛いな、お互いに」
「…」
言葉に詰まるような事、言うなよな…。どういう返事を期待しているのか、解っているけど。…面倒臭いな、…もう。
「否、課長はそうでしょうが、俺なんか…、課長の足元にも及びませんよ」
「そうかぁ?まあ美作もかなりイケてると思うぞ?」
顎を手で撫でている。自信のある顔つきだ。どうやら望み通りの100点に近い返しだったようだ。
満足げな顔をして、俺の肩をポンポンと叩くと、上機嫌で出て行った。
断りに行くなら早い方がいい。
早速今夜にでも行くか…。