好きも嫌いも冷静に

「こんばんは…」

閉店時間を狙って訪ねた。

「いらっしゃいませ。来てくれると思ってたわ」

「…策士ですよね」

「策士?フフフ…そんな難しいこと、思いもしなかったわ。でも、念ずれば思いは通ずるものだということは解ったわ。どうぞ、掛けてください。今、暖簾を終いますから」

「…」

「美作さん、御飯はお済みですか?」

「お気遣いは無用です。…気にしないでください」

「では勝手に適当にご用意致しますから、食べてくださいな。ここはそういう店ですから」

「折角ですが結構です。用が済んだら直ぐ帰りますから。
佐蔵さん、お見合いの件、俺は断りを入れると言ったはずですよね」

「ええ。部長さんからも、伺いましたよ?」

「なら‥、何故、あんな事を言ったんですか?」

「返事は返事として伺っても、諦めるのとは違いますから」

「…。俺は…、ハッキリ言っておきます。佐蔵さんは大人で素敵な方だと思います。料理もこんなに上手くて、気配りも出来る。
それでも俺は、貴女とは、この先ありませんから」

「はぁ…流石ですね。まず褒めておいてから、断るなんて…、話の持って行き方がお上手よね。
何故無いと、はっきり言い切れるのですか?
先の事は解らないじゃないですか、人の気持ちなんて…」

「そういうこと、無いことではないでしょう。が、敢えて同調はしません。それは俺の中の…、自分自身が感じて決める事です。
フワッとした事を言っていると思いますが、正真正銘、正直な言葉です」

「けんもほろろとはこの事ね。こんなにハッキリ言われるなんて初めて…。でも諦めたくない私の気持ちは自由よね……」

…ん゙!?んん…ん‥。


………環さん居るかな?
ぁあっ?!
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