好きも嫌いも冷静に
「今日はお店、お休みなの?」
「……ああ、店?いいえ、今日の蕪ら屋と同じです。
俺も今日はもう終いました、環さんに話があって」
「ねえ、晩御飯は済んだ?一緒に食べない?
確か英君、里芋とイカの炊いたの好きだったよね?
今日はね、あるのよ、偶然ね。そこ座って、お茶、…お茶入れるから。待ってて直ぐだから‥」
トンッ。英君……?
「……泣いていいんですよ。…強がらなくていいんです。解ってます。俺には解ります。環さんは今、プライドがズタズタだ。
隠して強がっても駄目だ。俺には解るんです。……フラれるなんて思ってなかったんでしょう?だから…、泣いていいんですよ」
「英、君……ぅぅ、ぅ」
俺は、俺自身も切なくて、環さんを強く抱きしめた。
願っていたとはいえ、偶然にもこんな場面。弱ってるところに出くわしてしまった…。
来ない方が良かったかも知れない…。
一人、静かに居たかったかも知れない。
俺には見せたくない姿だったかも知れない。
「今まで…、泣かされるような事、言われた事なんかないでしょ?
…解っていると思いますが、伊織は伊織なりの優しさであそこ迄言ったんです。…少しの期待も持たせない。
環さんに完全に諦めさせたくて、自分に固執して欲しく無くてです。
…貴女は今まで、いつもいつも勝者だったから。簡単だったでしょ?簡単にいつも勝って来たでしょ?
あいつが…、伊織が結婚を考えているのは知ってますか?」
腕の中で小さく知ってると頷いた。
「…うん。伊織には伊織の思う理想があります。
それは絵空事ではなく、とても堅実で、伊織らしい正直な理想です。今は、そういう人との出会いを探しています。そう決めたら、多分、考えは変わらない、そんな男だと思う。
環さんは伊織の探している人より、魅力的過ぎるという訳です。
大人だから、解りますよね?」
俺は静かに話し続けた。