好きも嫌いも冷静に
出来る事なら、このまま、何も話さず、このまま抱きしめていたい。……はぁ。
だが、そうもいかないか。
それでは今までの俺と、何一つ変わらないまま終わってしまう。この思い、ちゃんとするって決めたんだ。もう後はないんだ。
「俺も肉食です。でも、誰にでも肉食ってのとは違います。一人の人だけにです。俺は……貴女に対してだけの肉食です。環さん」
腕の中で小さく嗚咽を漏らし泣いている環さんの顎を強引に上げ、薄く開いていた唇に口づけた。
驚いたように一瞬目を見開いた。そうだろうな。唸って引き剥がそうとするから、頭を押さえて唇を割るように深く口づけた。
ん゙、ふ、ん、ん゙ん。
苦しそうな声をあげるが止めなかった。
抵抗しようとする環さんの右手を強く掴み、俺は更に深く口づけた。
…はぁ…。パシンッ。
唇を離した途端、力無く頬を叩かれた。まあ、こうなる。それは解ってのことだ。…こんなやり方は卑怯だからだ。
「…痛く無いですよ…」
「何するの!」
「何って、キスです」
「そんな事解ってる」
「なら、聞くのは無駄と言うものです」
「英君…」
「貴女だって伊織にしたじゃないですか。相手の気持ちなんて無視して。それと同じでしょ?…衝動です」
「英…」
「迂闊ですよ?…。いつまでも中坊の英君じゃないんです…。俺をちゃんと見てください」
「離して…」
俺は環さんの両腕、手首を掴んでいた。
「離さない。俺を見て…いい加減、今の俺を見てくださいよ」
「…英君」
「違う。英雄です」
「…」
「もう、大人なんです。ずっと前から…ですよ?」
「…英雄」
「はい。俺…、今夜は帰りませんから」
「英雄…」
俺は掴んだ腕を引き寄せた。…口づけた。…抱きしめた。