好きも嫌いも冷静に

ロングエプロンの裾をつまみ上げ、モジモジしているから…言い辛いことだろうけど。その仕草がな…。

「頼む英雄…。そんな態度はマズイから…。ちゃんとしてくれ、ちゃんと」

少しもどかしくて、イラッとしかけてしまった。

「違うなら、なんだってんだ?ダメだった訳じゃないだろ?」

「…一緒に寝た」

「はっ、違わないじゃないか」

でも英雄は首を振った。

「俺が抱いた‥」

「ああ…」

そこは聞かなくていいんだけどな。

「抱いたまま…、俺が環さんを抱きしめたまま、…朝まで一緒に寝たんだ」

「お、おお、…そうか、…そうか、…。いいんじゃないか?それで。あれだ。肉食同士だからって…、勢いに任せて、後で違う、なんて言われて後悔するより、ずっと愛情深くていいと思うけど?」

寝た、抱いたは、そのままのことだったのか。男女のそれとは違った、普通のことか…んー、慰めた方がいいのか?慰めるのもな。取り敢えず続きを聞いてみるか。英雄は言いたそうだし。

「…二人で環さんの部屋のソファーに座って、何も話さず、ただ肩を抱いていたんだ。
俺はそれだけでも舞い上がっていた。ドキドキしていた。
もう大人だって言い張ったのに…。
そんな慣れない、…女慣れしてない俺は…、多分、環さんに見抜かれていたんだと思う。
環さんは…ただ、有難うって。本当の大人の男なら、環さんが求める慰める術、知ってるからな…。
俺は、俺の胸に環さんを抱き込んだんだ。環さんも…身を委ねてくれた。
俺は…そのまま、環さんが眠りに堕ちるのを見てたんだ。
気がついたら俺も寝てた。…朝になってた。
ソファーに環さんを寝かせて、毛布を掛けて、そのまま。何も言わずに帰って来たんだ。これが全てだ」

「…そうか。俺はそれで良かったと思うよ?
英雄の優しさ、ガツガツいかなかった事が、かえって良かったと思うけどな。
まあ、佐蔵さんの恋愛に求めるモノ、というか、こういうとき男に求めるモノが何かは解らないけど」

肉食だって言ってもな。それはまたときと場合だろ。

「…俺、幸せな気分だった」

「…そうか。敢えて言うぞ。頑張れよ。これからだ」

「有難う、伊織!」

あ…英雄にがっつりホールドされた。
……。これが、…まずいって思うのも考え過ぎなのかもな。抱き合うことだってある、男同士だって、普通にあることじゃないか。

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