好きも嫌いも冷静に


「そうですよね。いきなり、こんな不躾に…」

俯いてしまった。

「あー、違うんですよ。上手く言えなくて…傷つけてしまったのなら謝ります。お気持ちは嬉しいんです。ただ、朝とはいえ、その、女性の、一人暮らしの女性の部屋にお邪魔してというのは、良くないですし。
大家さんといっても、変な噂がたっては大家さんが気の毒ですし。ですので、お気持ちだけ頂きます。
すみません、折角のご好意なのに。
あ、すみません!今朝は急いで出るもので、時間がなくて…本当申し訳ありません」

「あ、気にしないでください。こちらこそ急いでいるのに、お引き止めしてごめんなさい」

「…。すみません、では行ってきます」

「行ってらっしゃい…」

美作さん…。



ふぅ、ビックリしたな、もう…。
しかし、こっちが慌てているのに…間怠っこい感じがして…。はぁ。仕方ないか。時間がないなんてこっちの事情は解らなかったんだから。



「いらっしゃいませ〜」

「よ、伊織」

「…おお、モーニング頼む。ブラックで。ああ、時間、巻きで!」

「うっす!急いでるんだな、了解」


「はい、伊織さん」

「有難う」

少し茶色のポニーテールを揺らしている。

「マスターから聞きました、好きな人が居るって。それと、…時々出るあの言葉遣いの訳も。
エヘヘ、ごめんなさい、伊織さん。数々の失礼、許してください」

ほっ、…取り敢えず、良かった。何にせよ、事実じゃない事で誤解は困る。

「解ってもらえて良かったよ。気にしなくていいからね」
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