好きも嫌いも冷静に

店員が控えめな笑顔でいらっしゃいませと会釈した。
俺も何気に会釈して、こんにちはと挨拶した。
…。そうか…。あの子は、あの子だ。
俺はいつもの駅前の本屋に来ていた。
雑誌の間にメモが挟まれていて…メールして。
確か実花って名前の子だったかな。
そうだ、間違いない、あの日、レジを担当していたあの子だ。
…何だか、妙な感じだな。
始まらず終わらせた相手と、何も無かったかのように言葉を交わす…。
通常なら会う事も無いだろうけど、利用する店の客と店員だから、仕方ない。…。これでここを利用しなくなるのも勝手で、だからといって誰に何が解るってことまでもない。
忘れていたから何とも思わず来てしまったが、向こうは気不味いだろうな。
あの告白は、自分の事なのに、他人事みたいな、別世界の出来事みたいな感じもしていた。
面と向かって言われてない分、普通の告白と印象が違うんだ。
でも、これは俺側の感情で、こうして店で不意に見掛けてしまって、受ける感情は、これから毎回どうなんだろうな…。
簡単にスパッと割り切ってるのか?
それとも、まだドキドキしたり、するのだろうか…。
未練のようなもの…それも思いの深さや、思ってた期間により違うのか。
見掛けてドキドキするくらいなら、その程度。
憧れに似たモノなのかも知れないな。

俺はビジネス誌を手にレジに向かった。長い列ができていた。避けるのもかえってよくないと思った。迷わず彼女のいるカウンターに並んだ。

「お待たせしました、どうぞ」

受けてくれた子はもうあの子じゃなかった。
待ってる途中で交代になった。
店員と客なら、こんなものだ。



「こんにちは」

「あ、はい、こんにちは」

…。

「本屋さんですか?」

手にしている袋を見たのか、大家さんが聞いてきた。

「あ、はい。散歩がてらに本屋まで。丁度欲しい雑誌もあったので…」

自分の部屋に帰ろううと階段に足を向けた。
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