好きも嫌いも冷静に
階段を駆け下りた。
コンコンコン。
思いの外、強く大家さんの部屋をノックしていた。
「大屋さん、俺です、美作です」
「はい…」
あ、美作さん…。…どうしよう。
ゆっくりと戸惑うようにドアが開いた。
大家さんは気まずそうに少し視線を逸らし、俯き加減になった。そうだよな、さっきの今だから。
「あの、すみませんでした。さっきはビックリして、それに、あんな、素っ気ない態度を…。
取り敢えず、その事を謝りたくて。
上手く言えませんが、それで、突然の事だったので、率直な気持ちとしては、さっきも言いましたが、…今は何もないんです。それを言っておきたくて。
でも有難うございました。好きだと言って頂き嬉しかったです。
上手く伝わるかどうか…、これが今の俺の気持ちなんです。
それでは…、態度を謝りたかっただけですので。失礼します」
「あ、美作さん。待って、待ってください。
あの…私、ご迷惑を…、あんな事…言ってしまって」
「いいえ。告白する事に迷惑なんてないと思いますよ?
偉そうに言ってすみません。少なくとも俺はそう思っています。
好きだと言われて悪い気はしないと思います。
嬉しいモノだと思いますよ?俺は嬉しかったから。
…では」
「あ…」
カチャリ…。
話し終わるとドアは静かに閉じられた。
閉じられたドアを隔てて、伊織と澪は互いに向き合っていた。
澪は胸に手を当て、ほぉっと息を吐き、喜びに少し頬を染めていた。
伊織はドアノブから手を離し、ふぅと息を吐いて安堵していた。
そして、また、何も考えず伊織は部屋に戻って来た。
何だか足取りが軽く、階段を二段飛ばしに上がっていたのも、自分自身気がついていなかった。