好きも嫌いも冷静に
御子柴 澪
アパートの大家として、この部屋に住み始めた頃は何だか毎日が退屈で…。
大家さんと呼ばれる響きも何だかしっくり来なくて…。
私は親が遅くに生んだ子供ではあったが、両親は亡くなるには比較的若い年齢で亡くなってしまった。
このアパートにはそれ以来住んでいる。
兄弟も親戚も居ない。今は天涯孤独の身だ。
社会人として、会社勤めも僅か3年ほどの経験しかない。
父と母…、両親が亡くなり、…いつまで経っても喪失感から抜け出す事が出来ず、仕事を辞めてしまった…。
世の中には私より辛い思いをしている人だっている。両親の事は、遅かれ早かれ、いつかは訪れる事。
なのに、私は、許される環境に甘えた…。
住んで居る方々は、毎朝それぞれに通勤スタイルがあり、朝、顔を合わせると、本当に個性が現れていた。
出る時からキチンと仕上がっている人、そうじゃない人。
そんなんでいいの?みたいな感じで慌てて出掛ける人。
これで本当に仕事になっているのか、心配というか、人として大丈夫なのかとか、思ってしまう。
余計な事だと思うから、口出しした事はないけど。
帰って来たらきたで、よくたどり着きましたみたいな状態やら、何か余程の事があったのか、暗い表情だったりとか…。
人は色々な自分の人生を生きてるんだと、改めて考えさせられる瞬間でもあった…。
観察するように住人の方を見るのも人恋しさからだろうと思った。
そんな中、朝も夜も、ほぼきちんとしているのが美作さんだった。
その容姿もさることながら、身だしなみはいつも整っていて、挨拶をきちんと返してくれた。
当たり前の事を当たり前にする事は、もしかしたら簡単な事ではないのかも知れないと思ってしまった。
いい加減な人が多いせいかも知れないが…。際立ってしまった。
そんなところから、好感を持ち始めたのだと思う。