好きも嫌いも冷静に
・料理屋
はぁ、もう昼か…。どうりで人がザワザワしてる訳だ。
今日は、どうしようかな。
弁当買って帰るか、ん〜、どこか店に入って和食にするか…。行列は嫌だし、もたもたしてると食いっぱぐれてしまうな。別にコンビニに寄ってもいいけど。……ああ。
俺は営業先から、以前立ち寄った事がある小料理屋に入る事にした。
半分捲れ上がっている暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ…あら」
「こんにちは、すみません、今日の日替わりは何ですか?」
「はい、本日は、A定が鯖みそ、B定が鯵フライ、C定が鶏南蛮です」
ん〜。どれも旨いんだろうなぁ。迷うな〜、…よし。
「A定を、お願いします」
「畏まりました」
「はい、お待たせしました。どうぞ」
定食のお膳を軽々と持ち、左からテーブルに置かれた。
「有難うございます。頂きます、旨そうだ…」
「少し…、お久しぶりですよね?」
待ちきれず割り箸を袋から取り出し割った。
「ああ、そうですね、申し訳ないです。言い訳ですが、仕事でこっちに来ても上手く昼のタイミングじゃない時もありまして。今日は寄れて嬉しいんですよ。ここは美味しいから」
「あら、嬉しい事をおっしゃってくださって。
有難うございます。……お上手ですね。流石、営業の方。来て頂いているのになんですが、よくうちのような奥まった場所の店、見つけてくださいましたね?」
味噌汁を持ち上げた。
「ああ、それはですね、偶然は偶然なんですが」
一口飲んだ。
「…得意先の店舗の周辺、環境を見て回っていた時、たまたまです。こちらの方から出汁の良い匂いがしたものですから」
椀を戻して俺は頭を掻いた。
「出汁?まあ!そうでしたか」
「はい。きっと美味しい料理屋さんだろうと思いまして、それで」
鯖に箸を入れた。丁度一口くらいの大きさで身を掴んだ。
「有難うございます。これからも是非、ご贔屓に」
「ええ、こちらに来た時は、寄らせて頂きます。…旨いです」
口の中で鯖を噛み締めながら茶碗に手を伸ばした。早く白飯を口に入れたかった。