好きも嫌いも冷静に

あ。
好きという言葉に過剰反応していた俺は、笑って、行きましょ、と腕を取られて尚、ドキドキしていた。
何だか、あしらわれてる気がした。余裕の違いか…。

「さあ、上がって」

「はい」

「いつもと何だか違う。緊張してる?」

「…」

そりゃあ、してるだろ……そんなの…愚問だ。

「訳もなく…じゃないか。訳あって、緊張してます」

「フフフ。相変わらず可愛いわね」

「…」

それは、困る…。可愛いは卒業してもらいたい。

「御飯、食べてないでしょ?すぐ用意するから、適当に座ってて」

環さんはテレビのスイッチを入れた。

「つい、いつもの癖で、見たいと思って無くても、帰ったらすぐ点けてしまうのよ。煩かったら消して?」

「大丈夫、解ります。一人だとつい話し相手にして、ツッコミ入れたりして」

「そう。解る?返事もくれないのに話し掛けたりしてね。だってつまらないこと言うんだから」

「ハハ。解ります」


小鉢に入れた物から大皿に盛った物まで、色々並べ始めた。

「もういいですよ?こんなに沢山…」

「えー?御飯、遠慮なく食べてよ?もう少しでお澄ましが出来るから。
ビール飲む?日本酒も、あるわよ?売るほどね」

「ハハ、いや、今日は飲みません」

「そう?はい、じゃあ食べよう」

お澄ましを置いて、お盆から箸を取り、渡された。
直接手渡しされた事が何だか嬉しかった。
身内っぽくて。

「じゃあ、頂きます」

「はい、どうぞ。私も、頂きます」
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