好きも嫌いも冷静に

当たり前に流石なのだが、旨い。
魚の煮付けも、野菜の煮物も。和え物も。
正直、昔の環さんのイメージだと料理は苦手な人だと思っていた。それが…こういう料理を出す店の経営者になるなんて。
俺の店には無い味だ。
見事に正反対、和食と洋食だもんな…。

「美味しいね。あ、一人じゃないからねって意味よ。言ってって、強要した訳じゃないのよ?」

「はい、旨いです。御飯もすすむ味です」

「有難う。ねえ、英君?」

「はい」

「その敬語、止めるの難しい?」

「あー、難しいというか。もう長年の癖に成ってますから。抜けないですね、多分、急には」

「そっかぁ」

「あ、でも、気持ちは砕けていますから。堅苦しく取らないでください」

「そう?解ったわ」

「…少しずつ、雑にします」

「雑ー?」

「あ、いや、雑っていうのは、気持ちを雑にではないです。荒っぽくというか、話し方をそうしますって事で」

「解ってるって、律儀に言わなくても。フフフ」

「もう、酷いです、環さん」

緊張してるのに…。

「名前も…、環でいいから」

「あ…でもそれは、姉貴に知れたら殴られそうです。生意気だって」

「そんな心配、いらないわよ?早智には言ってあるから」

「え?」

「英雄を私に頂戴って、言ったから」

「え?…えーっ!い、いつですか?いつ、今日?」

頂戴って…どういう意味だ…。ゴク。

「フフフ。…この前の…翌日」

「姉貴、あ、姉貴はなんて?」

「ふ〜ん、て。今更、遅い遅い、だって」

遅い?どういう意味だ…。あー、冷静になれ。
別に、俺に決まった人なんて居ないし。何をそんな…気をもたせるような言い方…。姉貴は何を考えてるんだ。
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