好きも嫌いも冷静に
・聞いてくれ
「おはよう」
「いらっしゃいませ〜」
「おっす。伊織」
「はい、俺はオスですよ」
「どうした伊織?朝から頭、回転してるな〜」
「いや。最低なオヤジギャグだ。くだらないのに、口が止まらなかっただけだ。モーニング、頼む。あ、ブラックで」
「了解」
今朝は変わらない。いつもの英雄だ。
いや…ある意味、大人になったかな。
と、思ったのは…やはり間違いだった。
「伊織、こっち」
英雄は俺のモーニングをのせたトレイを手に、いつものように、また俺の手を引き、スタッフルームに連れ込もうとしていた…。
「おい、勝手に決めるなよな」
変に抵抗しながら引きずられるのもおかしい。
かといって、男二人、仲良く手を繋いで歩くのも…。
どちらにしても好意的には見られない。
いくら誤解は解けたからと言ってもなぁ…。お客さんがいつも同じな訳もなく…。これ、見た目、連れ込まれてる訳だから…。
あれこれと思いを巡らせているうちに、既に部屋に入っていた。
ガチャ。
ドアを閉め英雄は鍵を掛けた。
…おい、おい。そこまでしなくても…。
流石の俺も…まさかの事態、いざと言う時、このガタイに抗うことが出来るのだろうか…。
想像してみた。
…勝てないな。
英雄はトレイから丁寧にモーニングサービスを並べると、ニカッと笑った。
ぉぉおお、襲われる、ゾクッとしたじゃないか…。
「俺は伊織に抱きつきたい衝動を堪えたんだ」
「え゙?」
「いいから…、さあ、食ってくれ。そして俺の話を聞いてくれ」